
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者再生の2種類あります。
今回はこの違いついて説明していきます。
目次
小規模個人再生と給与所得者再生はどこが違う?
小規模個人再生と給与所得者再生には3つの違いがあり、どの再生方法を選ぶかを考える時に大切なポイントになります。
1.収入についての条件
給与所得者再生を利用するには、継続して安定した収入があることを証明する必要があります。安定した収入とは、過去2年間で給与収入の変動が20%以内のことを指します。
対して小規模個人再生は、給与収入が無い人向けのものですので、継続して収入があることを証明する必要があります。
つまり、「小規模個人再生は毎月の収入が安定していなくても利用できます。その代わり継続収入があることを証明してくださいね」ということです。

返済するためには、最低限の収入は必要です。裁判所が「この収入では、返済が難しい」と判断した場合は、小規模個人再生の利用ができません。
2.債権者から反対意見がないかの確認の有無
小規模個人再生を利用するには、債権者から反対意見がないか確認する必要があります。そして、債権者の反対意見が過半数以下であることが必要です。
つまり小規模個人再生は債権者の反対意見が過半数あると利用できないデメリットがあります。
給与所得者再生を利用するには、債権者からの反対意見の確認は必要ありません。
債務者からの反対意見については、後でもう少し詳しく解説します。
3.返済する金額の違い
小規模個人再生の返済金額の計算は、主に法律で定められた”最低弁済基準額”で決まります。給与所得者再生の返済金額は、生活費と税金を引いた収入の2年分です。
つまり、小規模個人再生の方が給与所得者再生よりも返済金額が少なくなるメリットがあります。
返済金額の詳細は、小規模個人再生での返済金額は?や、給与所得者再生の返済金額は?にて詳しく説明しています。

個人再生は、正社員以外でも収入があればできる可能性があります。そして、無職の場合でも再生計画案を提出するまでに就職できていれば、個人再生を利用できます。
小規模個人再生は、債権者の反対意見があると利用できない
それでは、”債務者からの反対意見”について、もう少し詳しく解説します。
小規模個人再生を利用するためには、債権者から小規模個人再生を利用することに対しての異議(反対意見)が無いかを確認するために、裁判所から債権者宛に書面で通知が届きます。
反対意見があった場合
債権者数(貸主数)の反対意見
例えば借金の債権者が8社だとします。反対意見を出したのが4社以下であれば、小規模個人再生を利用出来ます。ですが、5社以上の反対意見があると過半数に達しますので、小規模個人再生が利用できません。
債権総額(借金総額)からみた反対意見
例えば債権総額が800万円の場合、反対意見を出した金融業者の債権額の合計が400万以下であれば、小規模個人再生が出来ます。
ですが、401万円以上の反対意見があると、小規模個人再生が利用できません。
もっと具体的に書きます。3社の債権者がいたとして、A社が450万円・B社200万円・C社が150万円だったとします。もしA社が反対した場合は債権総額の半額以上になるため、小規模個人再生が利用できません。
もしB社とC社の2社が反対意見を出した場合は、合計350万円で債権総額の半額以下ですが、反対意見を出した債権者が過半数になりますので、この場合も小規模個人再生は利用できません。

小規模個人再生は、反対意見が過半数になるか、債権者が持っている債権の合計額が半額以上になった場合に、利用ができないことを覚えておいてください。
小規模個人再生を利用するための条件
次に、反対意見以外についての小規模個人再生を利用するための条件について説明します。
1.債務総額が5000万円以下である
この債務総額には、住宅ローンを含みません。
2.継続的に収入がある
毎月の安定収入がなくても、2~3ケ月に1度と継続的に収入があること。アルバイト・パート・年金受給者も定期的に収入があるため、利用を認められています。

生活保護受給者は除きます。なぜなら、生活保護費は最低限の生活を保障するために支給しているため、債務の支払いは難しいと考えられているからです。
3.債権者異議決議を行って反対意見が過半数以下である
先ほど書いた内容とかぶります。
債権者からの反対意見がないか、裁判所から確認のための書面を発送します。債権者からの反対意見が過半数以下か、債権総額が半額以下であれば、小規模個人再生が利用できます。
現在では、小規模個人再生に反対意見を出す債権者は少なくなっています。ですが、一部のクレジットカード会社やローン会社は債権の回収分が少なくなるため、反対意見を出してきます。

手続きをする前に反対意見を出しそうな債権者がいないか、弁護士や司法書士に相談しておきましょう。
反対意見が多い見込みであれば、給与所得者再生の方法で借金の整理を考えてみてください。
債務総額とは?
ここで1度、”債務の定義”についてご説明しておきます。
債務整理相談や手続き中に出てくる”債務総額”とは、住宅ローン・国民保健料の滞納分・市県民税の滞納分・その他の税金の滞納分以外の借金を合計したものです。
公共料金・税金・住宅ローンは、個人再生を行ううえでは債務総額にカウントしません。
個人再生を行った人の債務総額の例を記載しておきますので、参考にして下さい。
例:Aさん 男性 35歳住宅ローン債務や抵当権などの担保付債務、税金等
項目 | 金額 |
金融C社 | 350万円 |
サラ金D社 | 400万円 |
個人信用金庫E社 | 270万円 |
税金滞納分 | 38万円 |
住宅ローン | 700万円 |
Aさんの債務総額は、C~E社の借金を合計した1020万円です。
税金や住宅ローンは債務になりません。
例:Bさん 男性 40歳
項目 | 金額 |
C社 | 1000万円 |
D社 | 3400万円 |
E社 | 920万円 |
税金滞納分 | 88万円 |
住宅ローン | 2800万円 |
Bさんの債務総額は、C~E社を合計した5320万円です。5000万円を超えているため、個人再生は利用できません。

個人再生では、住宅ローンは減額の対象とならないため債務総額に含まれないのです。
住宅ローンや税金滞納分除く借金総額が5000万円以下であれば、個人再生で借金を5分の1~10分の1に減額できる可能性があります。
実際に小規模個人再生を利用した人の例
「どんな人が小規模個人再生を利用しているの?」と気になりますよね。実際に小規模個人再生を利用した、正社員以外の方の例をご紹介していきます。
例1:Aさん 女性 23歳 アルバイト(収入 月8万円)
Aさんの借金は総額300万円で、個人再生を利用すると借金が100万円に減る事が分かりました。
月収はアルバイトで稼いだ8万円です。その中から国民保健・年金を差し引いた金額は5万円程度となります。
実家で親と同居していて家賃や生活費が必要ないため、残りの5万円を借金の返済に回せます。
Aさんの最低弁済総額:100万円
再生計画案:27,778円×36ケ月

Aさんの収入は少ないですが、親と同居していて家賃・光熱費の支払いがないため、小規模再生を利用できました。
もし、Aさんが一人暮らしをしていたら、毎月の収入から家賃や生活費を引いて返済に充てられるお金が残らない場合は、個人再生の利用ができません
例2:Bさん 男性 68歳 (年金受給額 各月22万円)
Bさんの借金総額は450万円です。小規模個人再生をすると、115万円にまで減らせそうなことが分かりました。
月収は11万円の年金を受給しています。その中から生活費を引いた金額は、毎月4万円程度となります。
住宅ローンを終えた持ち家のため、家賃やローンはありません。
Bさんの最低弁済額115万円
再生計画案:32,000円×36ケ月

Bさんは、年金のみの収入で暮らしています。そして、生活費を引いても再生計画案で返済できるお金が残るため、小規模個人再生が利用できました。
例3:Cさん 女性 33歳 パート(収入 月5万円)
Cさんの借金は総額320万円。小規模個人再生で120万円まで減らせそうです。
月収はパートで稼いだ6万円です。夫は家賃や生活費を支払っているため、収入はそのまま借金の返済に使えます。
Cさんの最低弁済額120万円
再生計画案:33,334円×36ケ月

Cさんの収入は少ないですが定期的な収入として見なされます。加えて夫が安定した収入を得ていることも考慮されて、小規模個人再生が利用できました。
小規模個人再生の返済の詳細については、小規模個人再生での返済金額は?のページも参考にしてみてください。
給与所得者再生を利用するための条件
利用条件!
- 継続して安定した収入が見込める
- 借金総額が5000万円以下である
- 過去2年間の年収の変動が20%以内
- 債権者の反対意見を確認する必要がない
給与所得者再生の返済金額の詳細については、給与所得者再生の返済金額は?を参照してください。
給与所得者再生の条件は、小規模個人再生よりも収入の変動が少ないことを除けばほぼ同じです。
継続して安定した収入がある人とは?
継続して安定した収入がある人と言われると、サラリーマンを思い浮かべると思います。ですが、サラリーマン以外の方でも条件に当てはまる人がいます。
1.年金受給者
年金は各月に定期的に支給されるため、安定した収入といえます。ですから、毎月に換算して生活費を引いても余裕のある金額を受給していれば、給与所得者再生の利用ができます。
2.個人事業主
給料所得ではありませんが、年間を通して安定した収入が実際にあれば給与所得者再生の利用が可能です。
3.長期間続いているアルバイト
長期間続けているアルバイトで、収入が安定している。そして、これからも同じ会社に勤め続けられる場合は、給与所得者再生が利用できます。

上記の1~3については、小規模個人再生と給与所得者再生のどちらが自分にとってメリットがあるのか、弁護士や司法書士に聞いてから決めましょう。
年収の変動が20%以内じゃないと給与所得者再生ができない
安定した収入があっても、過去2年間の収入の変動が20%以上ある場合は給与所得者再生の利用ができません。
2年間の収入変動率
項目 | Aさん(男性 25歳) | Bさん(女性 27歳) | Cさん(男性 34歳) |
H26 | 300万円 | 300万円 | 450万円 |
H27 | 220万円 | 290万円 | 390万円 |
変動幅(%) | 26.7% | 3.3% | 13.3% |
上の表で、A~Cさんの2年間の収入の変動率を計算してみました。BさんCさんは変動率が20%未満のため、給与所得者再生を利用できます。
そして、Aさんは変動率が20%を超えたため給与所得者再生の利用ができません。ですが、小規模個人再生の利用は出来ます。

転職により収入の変動があった場合は変動率が20%以上でも、給与所得者再生を利用できることもあります。転職などにより、収入に変動がある場合は、事前に弁護士・司法書士に説明しておきましょう。
給与所得者再生を選択する場合の注意点
給与所得者再生を利用する前に、注意しておくべきことがあります。
この手続には、再度の利用や自己破産の免責後の7年以内は利用の制限があることです。
例1:給料所得再生を利用した場合
再生計画認可の決定を受けた日から7年以内は、給与所得者再生と自己破産の利用が出来ません。
給与所得者再生の途中で免責を受けた場合も、同じように7年間の制限があります。
例2:自己破産で免責を受けた場合
自己破産手続きの免責決定が確定した日から7年以内は、給与所得者再生と自己破産の利用ができません。
給与所得者再生をする場合、このような条件があるため小規模個人再生を選択する方が増えています。
今回のまとめ
小規模個人再生と給与所得者再生の違いは、収入が安定しているか・債権者の反対意見の確認の有無・再度の利用に制限があるかです。
小規模個人再生は、低所得であっても利用が可能な反面、債権者の反対意見を確認する手続きがあります。
給与所得者再生は、継続して安定した収入の見込みが必要で、再度の利用に7年間の制限が付きます。ですが、債権者の反対意見を確認せずに利用ができます。
このように、2つの個人再生にはメリットとデメリットがそれぞれあります。個人再生後のことも含めて、どちらの手続きを選択すべきか良く考えて決めてください。

低所得で個人再生を利用すると、借金の減額が大きいメリットがありますが、官報に載る・10年間新しい借入れができないデメリットもあります。
ですから、メリットばかりを重視して決めないように注意が必要です。
住宅ローンを抱えていない場合は、任意整理も選択肢として考えておくと良いでしょう。