
個人再生を利用する場合、マイホームを手元に残せる”住宅資金貸付債権(住宅ローン)の特則”があります。
この特則を利用すると、マイホーム(持家)を手放さなくて良くなる可能性は高くなります。ですが、この特則を利用するためにはいくつかの条件があります。
今回は、特則を利用するための条件とメリットについて説明していきます。
目次
- 1 住宅資金貸付債権の特則とは?
- 2 住宅資金特別条項を利用するための条件
- 3 1.会社名義で所有していると利用できない
- 4 2.自身の居住スペースが建物の床面積半分以下だと利用できない?
- 5 3.収入から住宅ローンと生活費を引いて残金がないと利用できない?
- 6 4.住宅ローンは減額されない?
- 7 5.保証会社の保証債務履行とは?
- 8 6.住宅ローンの滞納分を支払う必要がある
- 9 住宅資金特別条項を利用するメリット
- 10 1.住宅ローンの返済期間が10年延長できる
- 11 2.住宅ローンの延滞分を再生計画期間(3年間)内に分割で返済できる
- 12 3.住宅ローンの元金の一部を再生計画期間中に据え置きができる
- 13 4.債権者(銀行)の同意が取れると返済方法が変更できる
- 14 5.現在の住宅ローンの毎月の支払額と期限で支払いを続ける
- 15 住宅資金特別条項の手続に必要なもの
- 16 住宅資金特別条項の手続きについて
- 17 今回のまとめ
住宅資金貸付債権の特則とは?
個人再生を申し立てると、住宅を残したい場合は”住宅資金貸付債権の特則”を申し込む必要があります。
住宅資金貸付債権(住宅ローン)の特則とは、住宅ローンの返済を続けられることを証明できれば、マイホームを残せるという特別な制度のことです。
この特則のことを”住宅資金特別条項”といいます。
簡単に説明すると、以下の式のようになります。
マイホームを残すために必要な条件
自分の収入で、以下のお金が継続的に用意できることが条件
毎月返済できるお金 = 住宅ローン+再生計画の支払い額
※ただし住宅ローン額は個人再生しても減らせません。減るのはその他の借金だけです。

個人再生はパート・アルバイトでも認められる可能性が高いことから、もし夫婦共働きの家庭であれば、住宅資金貸付債権の特則も認められる可能性は十分にあります。
住宅資金特別条項を利用するための条件
住宅資金特別条項を利用するには、6つの条件が設定されています。以下の条件を参考にして下さい。
住宅資金特別条項
- 住宅は個人名義のものか
- 建物の床面積2分の1以上が自身の居住スペースであるか
- 住宅ローン以外に債権(借金)返済のためのお金があるか
- 現在支払っている住宅ローンの金額のまま支払いを継続していけるか
- 保証会社の保証債務履行から6ケ月以内であるか
- 住宅ローンの滞納がある場合は、延滞分の支払いが可能か
1.会社名義で所有していると利用できない
会社名義の住宅の場合は利用できません。個人名義の場合は利用できますが、会社経営をしている方が会社名義で所有している場合には、利用が認められません。
複数の住宅を所有している場合は、自身の居住用の1件しか対象とならないため注意しましょう。
2.自身の居住スペースが建物の床面積半分以下だと利用できない?
自宅が二世帯住宅や店舗で共有している場合、自身の居済スペースが床面積の半分以下ですと利用ができません。
例えば、建物の床面積の3分の2を店舗に使用している場合は利用ができません。ですが、1階部分を店舗として利用して2階全部が自宅としている場合は、利用できます。
また、庭や敷地内の駐車場に関しても抵当権の付加がある場合には、住宅資金特別条項の適用が出来ます。
3.収入から住宅ローンと生活費を引いて残金がないと利用できない?
個人再生で、住宅ローンの特則を利用する場合は、収入から住宅ローンと生活費を引いた金額がいくら残るかが重要です。この金額が少ないと、再生計画が認められない可能性が高いのです。
なぜなら、生活を切り詰めて返済計画を実行しても支払いが停滞する可能性が高いためです。

この生活費計算は、弁護士相談したときに出してもらえることもあります。また、個人再生を利用する前に収入に対しての浪費が多くないかを考えてみる必要もあります。
4.住宅ローンは減額されない?
個人再生をすると、マイホームは残せることを知っていても、「住宅ローンの残債額は減額されない」ことを知らない方がいらっしゃいます。
個人再生では、借金を減額はできるのですが、住宅ローンの返済総額は変わらないのです。
つまり、収入が少なければマイホームのローンを返済していくことが難しいので、住宅資金特別条項の利用が難しいということです。
ですが、ローン会社(銀行など)に個人再生期間中の3年から5年間は住宅ローンの元本返済分を減らしてもらって、個人再生での借金返済が終わってから通常の返済スケジュールに戻す方法もあります。
詳しくは個人再生後の住宅ローン返済はどうなりますか?のページをご参考ください。
5.保証会社の保証債務履行とは?
保証会社の保障債務履行とは、債務者が住宅ローンを延滞してから一定の期間が経過したときに、保証会社が代わりに支払いをすることです。
そして、この支払いした時から6ケ月が経過すると、住宅の債権が債務者から保証会社に移ってしまいます。
つまり、住宅ローンの延滞があっても債務者に所有権がある内なら、住宅資金特別条項を利用ができるのです。
ですから、延滞をしている場合は、債権者(保証会社)に所有権が移行する前に迅速に個人再生の手続きをする必要があります。

この特則は、建物に銀行や保証会社の抵当権が設定されていない場合には、利用できないため注意が必要です。
6.住宅ローンの滞納分を支払う必要がある
住宅ローンの滞納がある場合は、延滞分の支払いをする必要があります。この支払う延滞金には、損害賠償金・未払い利息分も含まれます。

個人再生を利用する方のほとんどの方は、この延滞分の支払いが難しいと思います。ですが、家族や友人に借りれなくても再生計画期間が終了してから分割返済することも可能です。
住宅資金特別条項を利用するメリット
住宅資金貸付債権の特則を利用すると返済方法が変更できるメリットがあります。この返済方法は5つあります。
住宅資金貸付債権の特則で変更した返済方法
- 住宅ローンの返済期限を最長10年延長できる
- 住宅ローンの延滞分を再生計画期間中に分割で返済できる
- 住宅ローンの元金の一部を再生計画期間中のみ据え置きができる
- 債権者の同意を取り返済方法の変更ができる
- 現在のまま再生計画通りの返済と住宅ローンを支払う
1.住宅ローンの返済期間が10年延長できる
この返済方法は、住宅ローンの支払い期間を延長することにより月々の支払い額を少なくできます。この方法を利用することにより、毎月の支払い総額が縮小できるメリットがあります。
例として、Aさんの現在の支払い・再生計画中の支払い・再生計画終了後の支払いを表にしたので、参考にして下さい。
Aさんの毎月の返済金額例 33歳 男性 再生計画案210万円
債権項目 | 現在 | 再生計画中 | 再生計画終了後 |
住宅ローン | 90,000円 | 68,000円 | 68,000円 |
その他債権 | 82,000円 | 58,334円 | 0円 |
支払い合計 | 172,000円 | 126,334円 | 68,000円 |
上記のように、再生計画前と再生計画中では毎月の支払額が46,000円程度違ってきます、そして住宅ローンを10年延長したために支払いも22,000円少額となりました。

住宅ローンの支払期限を10年延長しても毎月の支払いが難しい場合は、弁護士に銀行と交渉してもらうための内容を相談しましょう。
2.住宅ローンの延滞分を再生計画期間(3年間)内に分割で返済できる
個人再生手続きの申し立てをした時点で、住宅ローンを延滞していた場合に利用できる返済方法です。
例えば、4ケ月分の延滞している場合は毎月の住宅ローンと別に、元金・未払利息・損害賠償金の支払いを3年間以内に分割で返済をしていきます。この返済方法は、毎月の住宅ローンは支払えるが延滞金を一括支払いすることが難しいときに利用します。
3.住宅ローンの元金の一部を再生計画期間中に据え置きができる
この返済方法は、元金の一部分や延滞金を延長して支払います。Aさんの例を参考にして下さい。
Aさん:住宅ローン残金1100万円 延滞金55万円
現在の支払い金額:毎月11万円(元金:6万円 利息5万円)
特則を利用した金額:毎月7万円(元金2万円 利息5万円)×36ケ月
再生計画の支払いが終了した3年後から延滞金を分割で支払いながら、住宅ローンの残額を支払っていきます。
この方法は、再生計画の支払い中に住宅ローンを少額に抑えて、住宅ローン以外の債権(借金)が無くなってからゆっくり返済をしていけるメリットがあります。
4.債権者(銀行)の同意が取れると返済方法が変更できる
この方法は、債権者(銀行)の同意が取れることが条件ですが、返済方法を自由に決められるメリットがあります。例えば、以下のような条件を交渉すると返済が楽になります。
債権者に交渉したい条件
- 返済期間を10年以上延長してもらう
- ボーナス払いを無くしてもらう
- 利息や契約内容の見直しをしてもらう

弁護士と相談して、債権者たちの同意をしてもらうことが必要ですが、認められると返済が楽になります。
5.現在の住宅ローンの毎月の支払額と期限で支払いを続ける
再生計画を返済しながら、住宅ローンを支払っていく方法です。
ですが、この方法ですと多くの方が返済が難しいため、債務整理専門の弁護士と相談して、今までご紹介した1~4の返済方法を考慮する必要があります。
住宅資金特別条項を利用することで、住宅ローンの返済方法を変更できます。
ですから、無理な金額で支払いを続けようとせずに、弁護士に相談して住宅ローンの返済をを続ける道を探してみる事をお勧めします。お望みなら、余裕ができてから返済額を増やしてローン期間を短縮することも可能です。
住宅資金特別条項の手続に必要なもの
住宅資金特別条項を利用する場合は、小規模個人再生・給与所得者再生の申し立て手続きとは別に、提出が必要な書類があります。手続きに必要な書類について説明していきます。
住宅資金特別条項を利用の必要書類
- 住宅資金貸付契約の内容を記載した証書(約款部分を含む)のコピー 1通
- 住宅資金貸付契約が定めた弁済すべき額を証明する書面のコピー 1通
- 求償権の存在を証する書面(保証委託契約書)(約款部分を含む)のコピー 1通
※保証会社の求償権担保の抵当権等設定登記がされている場合のみ提出が必要です。 - 住宅及び住宅の敷地の登記事項証明書(3か月以内)の原本 1通
- 保証会社のした保証債務の全部の履行があった場合、代位弁済した日がわかる書面のコピー 1通
※保証会社が住宅ローン債務の全部につき代位弁済した場合に提出が必要です。 - 住宅資金貸付債権の一部弁済許可申立書(法197Ⅲ) 正本・副本 各1通
※個人再生委員分の副本は、上記と別に準備が必要です。 - 住宅及び住宅の敷地の査定書(不動産の時価がわかる書面) 1通
- 住宅資金特別条項利用事件のチェックシート

この書類に関しては、専門家ではないとどんな書類かの判断が難しいため、弁護士や司法書士に手続きをまかせましょう。
住宅資金特別条項の手続きについて
個人再生をしてマイホームを手元に残す場合、裁判所に住宅資金特別条項の内容を含む再生計画案を認めてもらう必要があります。そのため、再生計画案は住宅資金特別条項を含むものを作成します。
【関連外部サイト】住宅資金特別条項を利用する場合の再生計画案の書式
この住宅資金特別条項を利用しても、裁判所に納める手続き費用は変わりません。ですが、弁護士費用は5~10万円程度追加になります。
裁判所へ納める費用については、個人再生申立時に含まれるため個人再生申し立て手続きの方法を参考にして下さい。

とはいえ、個人再生は手続きがとても難しいので、一人での手続きは困難です。裁判所側も弁護士に依頼するよう勧めていますので、債務整理弁護士に依頼する方が良いでしょう。
今回のまとめ
個人再生を利用することで、マイホームを手放さなくて済む可能性が高くなります。
住宅資金貸付債権の特則を利用するには、個人名義で建物の床面積の半分以上が居住スペースであることが必要です。そして、収入から住宅ローンと生活費の他に再生計画案通りに返済が可能な収入が必要となります。
この特則を利用するメリットは、マイホームを手元に残せることや住宅ローン返済期間の延長や元金の据え置きなどで、毎月の返済金額を少額にできることです。

この住宅資金特別条項が利用できると、マイホームは残すことができます。債務整理専門の弁護士に相談されることをお勧めします。